はじめての社長面談

 

入社からまる3カ月が過ぎた。

相変わらず作業的には頼りないド新人のままだが、ぼつぼつ新人さんも入ってきた。

しかし3カ月が過ぎてもこれまで契約書のけの字もなかった。

ちゃんとお給料も明細もいただけてるので別にそれでもいっか、そういう体質の会社なんだろうと思っていた。

 

ある日の朝礼。

見たことあるようなないような見慣れない若造(失礼)が立っており、何やらしゃべり始めた。

会社のいろんなことを話している。おもに体質とか体制とかビジョンとかで、実務とは遠い感じの話題が多いが、話自体はじょうずで面白い。

中身はちょっと若いと言うか青い。そこまで青くはないが、系統としては理想論ぶち上げて熱くなってる若者系だ。

面白がってお話を聞いていたが、特にその人の素性に興味を持つこともなくその場はそれで終わって仕事へ戻った。

 

その後作業途中でお声がかかり、面談があるのでミーティングルームへ来いと言う。

ああそういえばなんか朝礼の時に個別面談したいみたいな話出てたな。

それを伝えに来てくれた女部長に「誰とすんの?朝礼で話してた若い人?」と問うと「あれが社長だよ」。

 

えええええ。

 

というわけで女部長と社長と入社後初の面談。

古い会社なので、正直社長のイメージはいぶし銀のクセの強そうな昭和のじいちゃんを想像していた。だいぶ肩透かしを食った形だ。

じっくり相対して見るとやはり若い。30そこそこといったところ、二代目か三代目か。

椅子を勧められ座るとそれまで女部長が座っていたためあたたかい。

思わずそう呟くと気候のことかと勘違いされ、いや椅子が、と返すと女部長は「あたためておきました」、社長は「椅子移ってもいいですよ」。

わたしは「ありがとうございます」とだけ答えた。このくだりで部長は冗談の通じる人、社長は通じにくい人、だと少し理解。

 

ここでおもむろに取り出されたのは雇用契約書。

 

おおお、すっげえ今更!

 

なんて内心はおくびにも出さず粛々とお話を聞き書類を受け取る。

書類の頭には試用期間3カ月の記載がある。もう過ぎてるわ。

とはいえ、とにもかくにもきちんと書類を出してもらえたことはありがたい。

居座って雑談って雰囲気でもなかったので早々に書類を手に席を立とうとすると、女部長が「なんか書類を入れるファイルとか」と社長に促した。

「あ、そうだね」とガサガサ手元のクリアファイルを探る社長。

1枚めぼしいファイルを取り出してわたしに差し出そうとして、一瞬ためらってその手を引っ込めた。

 

「なんで引っ込めるんすか」

 

と思わず強めの語調でなじると、おずおずとそのまま差し出してくる。

 

クリアファイルには「Create」の文字。

うお、求人広告会社のじゃん。

 

口元を歪めながら

「これは転職勧められてるわけじゃないよね?」

と問うと

 

「違います、全然違います」

「断じて違います、だからやめようとしたのに…」

 

もうホント、じわじわ来ます。

なんでよりによってそれ手に取るかな。持ってんなー社長。

 

契約書提出の時もこれで出そ。

 

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