職場に新しいパートさんがドカンと入ってきた。
まだ名前も顔も一致しないが、それなりに和気あいあいと働けている。
もっともそう思っているのはわたしだけかもしれない。
長く監督をしてくれていたBさんが急に現場を離れることとなり、戦場は少々混乱している。
体制がようやく整ってきたかな?くらいの状況だったので、引継ぎ云々はもちろん、また新たな上長との信頼関係の構築から始めねばならず、そこへ新人さんの大量補充。
古兵たちは新体制下一発目のシフトを見て誰もが不満の声を漏らした。
こんなシフトで回るわけないとか、週4とかだったのが週2とか週1まで減らされている、ようやく慣れてきてたのに冗談じゃない、とか。
そりゃそうだ。これまで希望していない時間帯やらでも参戦し、当初週1にも満たなかった状態から急ハンドルで制服の洗い替えも支給されないまま週4の過酷シフトに耐え、わけもわからぬ朝令暮改にこれでもかと振り回され、タイトすぎるスケジュール故善意での残業ボンバーに付き合い、して生き残ってきた古参兵たちだ。
おまけにろくに知らされないまま隊長が交代し、しかも今度の隊長は専任ではなく着任の挨拶もなし。
副隊長が2人ついたがいずれもよそとの兼任で、正直いったい誰がわれわれの責任者なのかわからない。
これで隊に命預けろってのは、無理だなぁ。
余談。
仕事を戦争に例えているが、わたし自身、仕事ってのは戦場であり、同時に会社との結婚あるいは大恋愛だと思ってる。
信頼できる上司と仲間とともに仕事という名の敵と戦う。
会社のことが大好きで、生活の全部を捧げても尽くしたいと思える。
という両輪でわたしは仕事というものを捉えている。
だからわたしは正社員にはなれないし、なりたくない。
命がけになっちゃうと、家庭を顧みず家がめちゃくちゃになっちゃうの目に見えてるからさ。
閑話休題。
古株さんたち同士では今後の身の振り方も少なからず話題にあがっていた。
今後のシフト次第では新しい仕事を探す人も出てくるかもしれない。
それでも、パートさん同士の関係が良好だったため、ブチ切れて辞めるって言いだすような人はいなかった。
ある意味わたしがいちばんやばかった。
もっとも、新しい副隊長のひとりはまだ若いがかなりよい視野を持っている。
彼女となら支えて一緒に働いてもいいと思える。
その彼女を育てたのが新しい隊長殿なので、面識はほぼないが新隊長はおそらくすぐれた人であると推測できる。
でも、ふたりともよその人なんだけどな。って思うと、会社に恋をしたいわたしとしては微妙ーーーーな気持ちになる。
仕事自体は楽しいのでまだまだ続けるつもりではいるが、恋愛はなにで冷めるかわからず、冷めると早い。
これからも恋をさせ続けていただきたいものだ。
だいぶどうでもいい話が長くなったが、新人さんがたくさん入ってきて、体制も大きく変わった。
こういう激動下では、わたしの手持ち最強武器、コミュ力がいかんなく発揮される。
いちおう「工場」なので、仕事自体は基本的に「誰がやってもだいたい同じ結果が出る」ようにデザインはされている。
それでも仕事内容はそれぞれ異なり、当然個人差も出てくる。
「得手不得手」ができてくる、って意味ね。
作業だけを見ると、残念ながら現時点でわたしは作業が早いほうではない。
作業内容にもよるが、わたしより仕事が早い、仕事ができる人は古株さんのなかにはいっぱいいる。いやむしろみんなわたしよりできる。
それがとても悔しい。
わたしはいつだって一番でなければならない。
だって仕事できねーのに口だけ達者で態度だけでかいって最悪じゃん。
できなきゃ。まずできてから。
だが、自分で言うのもなんだが、わたしは戦術理解度だけは高い。
要はなにがどうしてどうなってどうしたいか、意図や目的を一番早く理解し、次にどの作業をするために何を用意しておけばいいか、などを考えることも苦手ではない。
そしてそれらは言うまでもなく、コミュ力の高さに由来している。
つまりアレだ、どうすればこの試合に勝てるかは誰よりもわかってるんだけど、実際にフィールドに出るとそれほどすぐれたプレーヤーではないってやつ。
技術力や身体能力があきらかに不足してるタイプ。
うーん言ってて情けなくなってきてるよ!
ちなみにこの話をはむぺむとした際に、やはり彼は「おまえは一番になれ」と安西先生みたいなことを言ってきた。
細かい作業でよく見えないなら眼鏡をかけろ、道具が手に合わないならカスタムして専用道具を作れ、能力足りないなら補助用具を使え。そうすればおまえなら絶対勝てる。
どんな些細な事柄でもやるからにはいつだって200%全力の彼らしい発言。
いつ辞めてもいいかなーなんてちょっと思ってたわたしは、おかげでだいぶやる気出た。
また脱線したな。
わたしは仕事ができる人、ではないというのが情けないが現在の事実。
できないわけじゃないが、そこそこ。少なくとも一番ではない。
でも、なんかエラそうなんだよね。
いやそりゃわたしの口の利き方とか態度はもちろんあるかもだけど、なんつーかこう、発言力を持ってしまっている、感じ。
それは自分が望んだわけじゃなく、なんかそうなってしまっているって意味。
古株も新人も上長たちさえ自分の顔色を窺っているのがわかる。
べつにビクビクされてるってわけじゃない。
ただ、自分の発言が自分で思っている以上に期待され、受け止められている感じがある。
うん、ただの自意識過剰だったらそのほうがいいんだけどさ。
発言権を持つこと自体は悪いことじゃない。
コミュ力が無駄に高いんだから、ある意味当然と言えば当然だ。
でもなんか、実力が伴っていない状態でコミュ力だけが暴走しちゃってる感じが自分であるんだよ。
言ったら「猿山のボス猿」的なきもち。
それは裏を返せば「仕事はできなくても発言権を得られる」ということでもある。
なるほど、そういうオトナいっぱいいるよね。
なんでそういう奴が発言権や権力を持ってるんだろうって幼いころからずっと疑問だったんだけど、いま、まさに今それがわかったよ。
コミュ力という武器を使って望んでボス猿になった人もたくさんいるだろうし、あるいは望んでもいないけどなんとなく祭り上げられちゃってる人も、実はけっこういるんだろうな。
わたしはボス猿になりたいわけじゃない。
コミュニケーション自体、べつに人心掌握のためにやってるつもりはまったくない。
単に作業中は手は忙しくても口は暇だから動かしてるだけで、普段のやり取りには中身なんてないしろくに覚えちゃいない。
ただひたすら欲するところを言葉にして吐き出しているまでだ。
発言を期待されることが、なんかいたたまれない。
それでも群れで生きる性質上、コミュ力高いと群れの中である程度重要な位置づけになってしまう。
仕事たいしてできなくても、コミュ力が高いだけで発言を求められる。
それを繰り返してると自他ともにボス猿的な認識が出来てきてしまう。
なんてなことを、新人さんがわらわら入ってきて妙に感じさせられてるこの頃。
いままずわたしがやるべきことは、パートさんの中で一番仕事ができるようになること、だ。
ボス猿気取って調子乗ってないで謙虚に真摯に作業と向き合って努力することだ。
わかっちゃいるけど根が不真面目だからさぁ、努力が苦手なんだよねぇ。
ラクして適当にしゃべって、それなりに楽しく過ごせればいいし。
コミュ力は仕事はもちろん人生のどんなシーンに於いてもある意味最強だが、同時にわたしみたいなダメ猿が発言権を得てしまう危険性も孕んでいる。
理想は「口八丁手八丁」です。がんばれわたし。
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