居間で使っていた掛け時計が弱ってきたらしく、壁にかけておくとすぐ遅れる。
モーターが一所懸命カッチカッチ言う音はするのだが、パワー不足なのか。
電池を替えたり針をぐるぐるまわして合わせてみたりしていたが、いよいよダメなので修理に出すことに。
そういえば人生で「時計を修理屋さんに出す」ってこと、したことない。
安い時計を長く使ってダメになったらまた新しい安物買って、ってしてきたせいなのか。
コレは頂きものだし、デザインも気に入ってるからまだまだ使いたいしな。
街の時計屋さんを探して持っていくことにしたが、針がむき出しのガラス製なので持ち歩きが微妙。
まあいいや、と無造作に買い物袋に突っ込んでチャリでGo!
で、お近くの時計屋さん発見。
自動と書いてあるが待てど暮らせど開かぬドアの前で待つこと数分、店員のお兄さんが微妙な笑みを浮かべながら手動で開いて招き入れてくれた。
店内は昭和の香り漂う薄暗い感じ。
ある程度予想の範疇内ではあるが、こういうとこってどうやって商売成り立ってんだろう。不思議。
症状を話し、金額と修理期間を聞いておいとま。全バラシと言ってた割に意外と安い。
その際
「預かり証を切らしているので」
ということで、チラシの裏を破ったモノに店の名前と電話番号、預けた品物を殴り書きして渡してくれた。
…んー、なんか、だいじょうぶかココ。
数日後、知らない携帯番号から携帯に着信。
「携帯からでスミマセン、○○時計店です」
おま、電話番号書いてくれた意味ねーじゃん。
受けとりに行くと、預けた時には歪んでいた針もまっすぐ美しく、新品のように組み上がっていた。
おお、さすがプロ、職人技。
支払いの段になって諭吉さんを出そうとすると
「あ、すいません、つり銭ないんですが…どうしましょう」
つり銭ないのもアレだが、客にどうしましょうって訊くか普通。
もうなんかある意味おもしろくなっちゃってたので、近くのコンビニで崩してきて支払い。
時計をものすごい丁寧に扱うお兄さん。
針の間にティッシュを何枚か挟み、セロテープでベタベタ止める。
わたしにくどいほど何度も
「くれぐれも、針を直接手で回したり触ったりしてはいけませんよ」
と言う。
あげく持ってきたときと同じように無造作にバッグに入れようとしたら
「ダメですダメです針に圧力かかっちゃう!こうやって水平に触れないように持ってください」
…こちとらチャリだよ、そんな持ち方無理だよ。
そのまま買い物に行こうと思っていたのだが、彼がすぐ帰れと口うるさく言うので帰りました。
なおって帰ってきた時計君は、驚いたことにまったく音がしなくなっていました。
あんなにカチコチ言ってたのに、無音でしっかり時を刻んでおります。
定位置に戻った時計を見て、そういう精密な世界もあるのだなとしみじみ。
店として商売としては非常にあり得ない対応でしたが、時計という特殊な品物を扱う人は
職人さんというか、変態ですな(注:誉めてます全力で!)
客そのものよりも時計に対して優しく丁寧な扱いと視線を注ぐ彼に、新しい世界を見せてもらった気持ちでした。