職探しは順調に進行中、と言いたいところなのだが、だいぶ迷走している。
ちょっと散らかり過ぎた2週間だった。
はむぺむに「お前何焦ってんの。故障してるよ、ちょっと落ち着け」と言われてはっとしたんだが、なるほど確かにだいぶ混乱して迷走してた。
故障してたんだな。
予期せぬクビ(自主退職)と、自分の年齢とかスキルのなさとか、潜在的に不安に煽られていたことは否めない。
まだ散らかってる最中なんだが、ひとまず精神的には落ち着いたので前半を振り返ってみよう。
まずは前回の続きから。
自宅から比較的近いお菓子工場に派遣で申し込み、某日朝、チャリで早速赴いた。
近いっていいね、と思いながら玄関をくぐると想像以上に人がたくさんいる。
初回の人の受け入れにも慣れているようで、名前と派遣元のチェック後簡単な場内説明と作業服、靴、ロッカーの鍵を渡され着替え。
身一つでやってきても2,30分あればしっかり歯車の一つとして稼働できるようになっている。
ちなみに懸案だったベルトは必要なかった。以前はベルトが必要な形状の作業着だったそうだが、今は腰のあたりに紐が付いていてもうずいぶん前からいらなくなってますとのこと。派遣屋はん、訂正しときなはれよ。
ロッカー番号が見つからずおどおどしつつもどうにか身支度を終える。
あきらか派遣って感じの人のほかに、社員さんとおぼしき人、そしてパートさんだろうなと思える外国人がとにかくたくさん行き来している。
その率、6:4…いや7:3くらいか。ほぼ外国人女性。
休憩所の注意書きは日本語・ベトナム語・ポルトガル語・あとインドネシア語だったか。ポルトガル語はつまりブラジル人ってことかな。
通常駅とかで見る外国語は英語・中国語・韓国語とかだ。ここは日本の中でもかなり特殊なエリアなんだ。
その異質さに圧倒されているうちに早くも始業時間が近づいてきた。
作るものが食品とあって、衛生管理はすさまじい。
防護服はもちろん入るたびに全身コロコロのち人間の目視によるチェックを受け、手袋、靴は装着後消毒、さらにその上に手袋。厳重極まりない。
現場に入るとその広さに驚いた。
体育館くらい、いやもっとあるかな。
機械と機械の間は比較的ゆとりのある配置になっているが、その間にベルトコンベアがあって、コンベア周りの人口密度はすさまじく高い。
入り口で派遣の割り振りが行われ、〇〇さんはどこどこ、××さんはどこそこと慣れた様子だ。
キョドりながら指示を受けた。
「たるたるさんはパンナコッタの直しね」
連れられて人がびっしり並ぶコンベアの真ん中あたりに立ち尽くし、簡単な説明を受けた。
本日のお仕事内容は「パンナコッタの上のチョコレートスポンジを整える」。
コンベア始動。
上流から空の容器に液体を入れその上に固体を入れ、さらになんかいろいろ投入され、したパンナコッタになる予定のものが流れてくる。
わたしがちょいちょいとその上っ面を整えると、下流の人たちがさらにその上に固体や液体を投入していく、といった塩梅。
これが、ああこれが。
開始30分でもう逃げ出したくなってた。
なんじゃこりゃツライ!忙しい!首と肩がアホみたいに痛い!
単純作業だし黙々とやるの嫌いじゃないし、なんて思ってた自分をぶん殴りたい!
無理だって無理無理、息切らしながら走り回ってる方が百万倍楽だわ!
加えてベルトコンベアがものすっごい酔う。完全に乗り物酔い。
動いていくコンベア上の容器たちにつられて体も持ってかれ、自分が動いている気になっていた。
かなり挙動不審だったろうが、正直それを気にする余裕すらなかった。
工場のシステムとしてはすごくよくできていたと思える。
思えるが、それらを観察し堪能する余裕なんざどこにもなかった。
ただひたすら流れ来る物体を突っつきまわし続ける6時間。
途中希望者には交代要員が一時入ってトイレに行くことはできたが、再度入場の手間を想像すると行く気にはならなかった。
耐えに耐えて耐えて耐えた6時間は、控えめに言ってわたしにとっては地獄だった。
終業後はマシンになった後遺症かしばらく放心状態だった。
あれ、工場ってこんな大変なの…?なんかもう、自分が人間だってこと忘れてるんだけど。ていうかわたしここで何してんだっけ?何しに来たんだっけ?
慣れはあるだろう。どんな仕事でも長くやれば慣れる。それはわかる。
あと、使う筋肉が違うってのもあるだろう。同じ姿勢で固定しておくには普段使ったことのない筋肉が必要ってのもあるだろう。
コンベアの高さが体に合ってないのも要因のひとつだろう。割り振られた作業がせめて投入系だったらもう少しメンタル的にもマシだったかもしれん。
と、さまざまな要因を加算して差っ引いても、これはわたしには無理だ。無理すぎる。
自分の我慢のなさ、根性のなさに唖然とした。
いやもう、わたしダメじゃん。すっげえダメじゃん。
まわりの派遣らしき人たちも、大多数の外国人女性たちも、それこそ身じろぎひとつせず従事していた。
どうしたらあんなに固定された備品みたいな姿勢を何時間も維持できるのか。
素直に尊敬したよ。
同時に、それらをフォローする役割の社員さんたちはなるほど仕事としては面白いだろうなと思えた。
歯車はつらいが、それらを含むシステム全体を把握して動かして行くのは面白かろう。
工程管理ってやつなのかな、名称はよくわからんが、工場自体はほんとうに無駄がなく設計されていたし、人が足りないとかモノが足りないとかそういう状況に陥る可能性すらないような仕組みになっていた。
6時間の作業中でコンベアが止まったのはわずか1,2回。
1日で何十万個ってレベルの商品を作るようだ。本当によくできていた。
人力でやっている作業の多くは機械に置き換えることが可能な作業が多かったのだが。
わたし自身よく食べるコンビニスイーツは、短い期間でラインナップが変化する。
そのたびに機械を入れ替えるよりは、人を配置して都度別の異なるかつ単純な作業をさせるほうがコスト的にはるかに安上がりってことなんだろう。
そんなことを考えると、コンビニスイーツを買ったり食べたりする際の心持にも多少なり変化があった。
そしてそういう作業に従事している人たちの多くが外国人女性であるという現実。
言葉も満足に扱えず異国の地で働くとなればなるほどこういった仕事が選択肢となろう。
国際化ってなんだろう。人類みな平等って誰が言ったの。
わたしにとってはあまりに濃厚なこの6時間の経験が、このあとのわたしの迷走をさらに加速させる。
長くなったのでつづきはまた後日。