中学生の頃、友達に勧められて聞いた曲で衝撃を受けたものがいくつかある。
当時まだネットはなく、ラジオも全然聴かない(ってか田舎でろくに入らなかった)ため、テレビの歌番組程度が情報源。
そのテレビもせいぜい23時までで以降はまったく見ることがなかった。
小学校中学年くらいから音楽媒体(まだカセットテープだった)を買うようになったが、いずれもテレビのゴールデンタイムで放送されるようなメジャーなものだった。
そんな中1時代、クラスに転校生がやってきた。
無駄に社交的なわたしは転校生とはもれなくすぐに仲良くなる性質で、彼女ともすぐに親しくなった。
半年くらい蜜月は続いたが、その後はなんとなく疎遠になってしまい、以降まったく会話をすることすらなく現在に至る。
たぶん飽きられちゃったんだろうな。
それでも、その半年の間に彼女がわたしに与えた影響や衝撃はすさまじいものだった。
いまごろどうして暮らしているのか、風の便りでは地元にいると聞いたが、いつか直接会ってそのとき彼女がわたしにくれたいろんなものへの感謝を伝えたい。
さて、彼女がわたしに与えてくれたものは非常に多岐にわたるが、なかでも音楽。
自分では絶対に下手すると生涯知りえなかったものと出会わせてくれた。
ひとつはザ・タイマーズ。
これについてはまたいずれ別記事であらためて触れたい。
で、きょうお話したいのは、バンド「カステラ」。
「ビデオ買ってよ」。
これはかなり売れた(ハズ)なので、同世代なら知らない人のほうが少ないかもしれん。
わたしはその同級生に教えてもらうまで知らなかったのだが、
もう歌詞が、ね。。。
ビデオ買ってよ OLなんでしょ
お金あるんでしょ?
ぼくをひとりにするんなら
かわりにちょうだい ビデオ
あたらしい彼女をつくって
一緒に見たい
ヒモじゃん。クズじゃん。最低じゃん。
およそ一般的な道徳とか常識とか倫理観とかを大事に、高度なユーモアとかいうものには程遠く、まっすぐに生きてきた10数年の経験値しか持たないわたしにとって、こんな人として唾されるようなセリフを陽気に大声で歌い上げる彼らの感性が、そしてそれを喜んで支持する人々が、到底理解できなかった。
何これ?正気?
なんでこんなものが世に出て、人に認められるの?
割と真剣に悩んだ。不愉快ですらあった。
そしてたどり着いたそのときの結論は「もっと聴いてみよう」だった。
で、CDレンタル屋(これももはや死語になりつつあるなぁ)に行き、アルバム「鳥」を借りてきて、これを聴き倒した。
なかなかどうして、どれもヒドイ歌詞ではあるのだがキャッチーで耳に残り、なんといっても楽しい。
「遅刻をしよう」だの「ポイってやってごらん」だの、ほんと「子供に聴かせたら
PTAからメチャクチャ文句言われるだろう」内容なんだけど、一緒に陽気に口ずさめちゃう。
なんとなく親と一緒の時には聞いちゃいけないモノのような気がして、ひとりでこっそり聞いていた。
そうしてがっつり聞きこむうちに、拒絶反応のようにイヤだった歌詞の世界もなんだか少し理解できる気がしてきた。
実際はたぶん、「理解できた」というよりは「近くなってきた感じがした」くらいだったんだろうと思うけど。
わたし自身は清廉潔白品行方正に生きることに窮屈さを感じていたタイプではまるでなかったけど、世の中には理性とか常識に抑圧された奥のほうにそういう破滅的な何かを持っている人はたぶん一定数いて、そういうものを言葉にして吐き出すことでスカッとする、みたいな部分もあるのだろう。
もちろんそれだけじゃないとは思うけど。
なかでも好きだったのは「世界が回る」。
「頭を回すと世界が回る」って、バカじゃなかろうか。
でもこれが楽しいんだわ。
なんかこう、人生の真理を含んでいる気すらしてくるよ。
今もって好きなバンドで、好きなアルバム。
このアルバムとの出会いは、わたしにそれまで持っていなかった価値観や理解できなかった感覚、そしてそれらをかたくなに拒否するのではなく受け容れることで「新しい視界が広がる可能性がある」のだ、ということらを教えてくれた。
あくまで可能性であって、なにもない場合もあるし、弊害もあるかもしれない。
それでも、知らないよりは知っていたほうが、人生は楽しいのではないかと思うわたしにとっては、とてもエキサイティングな出会いだった。
ま、お年頃に「パンク」に触れてメーターが上がったってだけの話。
思春期にそういうものに出会ったけど、その後もしごくまっとうな人間として生きてきたので、どうやら悪影響はなかったようです、たぶん。
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